『野生茶』の業界標準
近年、中国では「野生茶」や「野茶」と呼ばれるお茶が多く販売されており、人気を集めています。もっとも「何をもって野茶とするのか?」の基準が漠然としており、玉石混淆の状態であったことも事実です。
このようなことから、2024年10月に業界標準『野生茶』(GH/T 1465-2024)という標準が公布され、今年の5月1日から施行されています。
今回はその内容についてご紹介します。
野生茶の定義
まず、この標準の冒頭で野生茶とは何かという定義がなされています。それによると、
3.1 野生茶 wild tea
野生状態にある食用可能な野生型茶樹あるいは栽培型茶樹の生葉を原料とし、特定の技法を用いて加工製造された茶葉製品
と定義されています。さらにここで使用されている、「野生型茶樹」「栽培型茶樹」「野生状態」という言葉についても定義されています。まず、「野生型茶樹」は、
3.2 野生型茶樹 wild type tea plant
ツバキ属の植物に属する、大廠茶(c.tachangensis)、大理茶(c.taliensis/タリエンシス)、禿房茶(c.gymnogyna/ギムノギナ)と厚軸茶(c.crassicolumna)等の人類が食用するのに適した野生種の茶樹タイプ
とあり、野生型茶樹の中には、いわゆるカメリアシネンシス以外のツバキ科の近縁種も含まれます。一方、「栽培型茶樹」は
3.3 栽培型茶樹 cultural type tea plant
茶(Camellia sinensis)および大葉茶(c.sinensis var.assamica・アッサム種)と白毛茶(c.sinensis var.pubilimba)などの人類によって選育された、栽培型の茶樹タイプ
とあり、いわゆるカメリアシネンシスの変種グループ(中国種、アッサム種など)を含むものとなります。
野生状態とは?
そして、「野生状態」については、次のように定義されています。
3.4 野生状態 wild condition
森林が野生あるいは疑似野生(仿野生)の環境に20年以上置かれた状態
疑似野生というのが少し分かりにくいですが、これは”人為的に植えられた植物などを自然に近い状態に置いたもの”というのが近いイメージです。即ち栽培は人間が意図を持ってしたものの、その後の管理は基本的に自然に近い状態にしたと言うことですので、いわゆる”野放”の状態ということになります。
「野生茶というのは、そもそも栽培が行われたものでは無くて、自分で勝手に生えてきたものでなければならない」と独自の厳しい定義を唱える方もいますが、それはこの文面からは否定されることになります。
最近よく聞く「文革期(1966~76年)の際に開拓された茶畑が放棄された場所のお茶を摘んでいる」というお茶は20年以上が経過しているはずですから、定義に適うということになります。
製品のタイプ
製品のタイプについては、以下のように定義されています。
4 産品分類
製品の状態により、野生茶は散茶と緊圧茶に分けられる。野生散茶の主要なものには、野生緑茶、野生紅茶、野生白茶、野生烏龍茶と野生黒茶がある。野生緊圧茶の主要なものには、緊圧白茶と緊圧黒茶がある。
としており、それぞれに官能指標として、水分、ミネラル、粉末、可溶分についての官能基準が設けられています。水分などを見ると、通常のお茶よりも高い値が許容されることになっていたり、可溶分の量も下限値が小さく設定されるなど、素朴な造りを許容した内容になっています。
近縁種の扱いや野生の基準が明確に
この標準が誕生した理由ですが、市場での野生茶の氾濫に対応し、その基準を設けるという意味から制定されたものと思われます。
「野生とは何か?」という定義が「野生状態に置かれて20年」という一つの目安が示されたというのは、標準の意義を感じます。
また、普洱茶などを扱う人たちの中からは、近縁種の扱いをどうするべきかのモヤモヤもあったのですが、それも「野生茶」であれば認められることになったわけです。
この標準で定義されている用語や内容は僅かなのですが、境界で悩んでいる方にとっては、有意義な標準だと感じます。